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<数時間前の景色 Ⅱ (前編)> [短編]

(まえがき)
皆さんは生まれてから今まで少なくても1度、多ければ毎日のように「夢」を見た事があるでしょう。
その夢はカラーだったり、モノクロだったり、自分の都合のいいように出来ていたり、自分の思い通りにいかなかったり、様々。
だけど、誰もが必ず見る夢に「落ちる」夢があると思います。
例えば、暗闇にフッと引き込まれる感覚で「うわ!!」って目が覚めるなんてありませんか?
暗闇に引き込まれる恐怖で体がその夢を拒絶してしまうから、その闇の終着点を見た人はいない。
だけど、もしその闇の終着点に辿り着けるとしたら、そこにはどんな世界が広がってるんでしょうか?
この物語の主人公が最初にいる場所は、そんな闇の終着点なんじゃないかなぁ?って勝手に思っています。
ぜひ前作を読んだ上で楽しんでもらえたら嬉しいと思います。

 

(1)

「ゴホゴホ!!あぁ~いってぇ~・・・頭がガンガンするな・・・」


彼は何度か咳き込み、そう呟いた。


「ん?ここは何処だ?」


何故か彼は真っ暗な闇の中に立っていた。
立っていたという表現が本当に正しいのかは分からない。
もしかしたら寝転んでいるのかも知れない。
どちらが上でどちらが下か、はたまた横なのかさえも分からないような空間にポツンといた。


「えぇ~っと俺はなんでこんな場所にいるんだっけ?」


何かを思い出せない。
手を伸ばしてみてもぶつかる場所が無い。
自分の足元を手で触ろうとするがこれさえも空振り。
そんな動作をしながら彼は続ける。


「おいおい俺は夢でも見てるのか?んー・・・でもこの場所なぁーんか記憶にあるんだよな・・・なんだっけなぁー!!あぁ~くっそここまで出かかってるのに!!」


誰にでも良くある「アレ」が思い出せない状態らしい。
芸能人の名前などでも「ほら、あの人!!えーっと誰だっけ!!」みたいな事があるだろう?彼はきっとそんな心境だったんではないだろうか。


「そうだ!!分かったぞ。ここはアレだアレ!!数年前の事件の時にも来た場所じゃん!!」


彼は何かを思い出し、デカイ独り言を暗闇に向かって言い放った。
残響するものがなく、一瞬にして先程までの無音が返ってきた。

彼の言う数年前の事件と言うのは説明するには多少長くなる。
私は説明が面倒なので省くが、どうしてもその「事件」と言うものが知りたければ、「椎名慶治」と言う人物がその話をどうしても短編にしたいと私に言ってきた事があるから何処かで読めるやも知れない。
後は皆さんが各々で探してくれるとありがたい。

自分のいる場所を思い出した彼はその後すぐに今度は疑問が浮かんだ。


「ってなんでこの場所に来る必要があるんだ?なんかあったっけ?さっきは頭が割れそうに痛かった気がしたけど・・・それもなんでか思いだせん・・・。耳鳴りは・・・いや、無かったよな。」


何故この場所に来たのか理由が見付からない。


「俺はもしかして時を戻そうとしてるのか?何も理由なしに時を戻せた事なんかないんだからきっと理由がある筈なんだけど・・・。」


彼の独り言を聞いているとどうもここは簡潔に言うと「時の狭間」みたいな場所なのだろうか?
この真っ暗な場所を辿って時が戻るのか?私もここを通って時を戻した事があるのかも知れないが、残念ながら無我夢中過ぎたのか記憶が無い。


「考えてもしょうがないよな・・・もう一度同じ朝を迎えるのかも知れないけど記憶がないんだしどうでもいいや。」


ポジティブなのか馬鹿なのか・・・彼の潔さは誰に似たのだろうか?


そして彼は目覚める。
あの日の朝に・・・。

 

(2)

男はPCのモニターだけが青白く光る部屋でブツブツと、しかし荒々しく何かを言いながら文字を打ち込んでいる。


「あの病院で行われている人体実験の全内容データはこのPCに保存してあるし、私が長い研究の中で生み出した最新の薬品の作り方、それ以外の様々な薬品のデータもPCには保存してある。今回たまたま明るみに出てしまった事件を、間違った薬を投与したせいでの死として扱い、その責任を私にする事ですべて揉み消そうとした。だが、今回のこの人体実験は今までの実験の中のたった一部でしかない。本当はもっと多くの犠牲者が人体実験の犠牲になっているんだ。」


青白い光が男の顔を不気味に浮かび上がらせている。


「患者の親族や世間は、偽の病名で揉み消されている事に気付いてないだけだ。全て誰がどんな実験で死んだかもここにはちゃんと記録が残っている。日本では認知されてない薬の投与、その副作用や、その後の病状の悪化など、最終的に死に至るケースも全て揉み消してきた。素人からすれば医者から病名を言われればそれが正しいと思い込むもの。今回の件みたいにモルモットが人目につく場所で死んでしまった事がそもそも間違いの始まりだ。まぁとにかく、それら裏医療の全データは私の犯行から30分以内には警視庁に自動送信されるように設定した。コレが一つの証拠となり、そうなれば後は連鎖するように全てが暴かれるだろう。アイツ等みんなオシマイだ。今まで散々人を使ってきたくせに私だけを消そうとした報いを受けろ。・・・私は一人では死なん。先に地獄で待ってるぞ。」


そう言い男はPCを閉じたと同時ぐらいだったろうか。


「どうも~バイク便です。」


家の外ではインターホンを鳴らしながら自分の存在を大きな声でアピールするバイク便と言われる配達員が立っていた。
男はインターホンカメラでその配達員の顔を十分に確認した後、玄関のドアを開けた。


「御苦労様、この書類をこの住所まで届けて欲しいんだが、出来れば8時までにお願いしたい。」


男は先ほどの不気味な表情とはうって変わってとても柔らかく配達員にそう伝える。


「かしこまりました。なるべく早く届けるようにします。御利用ありがとうございました。それでは失礼します。」


遮光カーテンのせいで部屋の中は真っ暗だったのだろう。
外の世界は光で溢れていた。


「さて、私も行くとするか。この場所もいつ嗅ぎつけられるとも限らないし、最後に私が作ったこの薬品の威力を世の中に知らしめてやろうじゃないか。」


男は部屋の施錠をしっかりとして外出した。

 

(3)

8時06分


「行ってきまぁ~す!!」


誰も返事をしない部屋に向かって挨拶をし、勢い良くドアを飛び出した彼女の名前は「下山 サリ」22歳。
目鼻立ちはクッキリしていて、典型的な美人顔。身長も高く、スタイルも悪くない。間違いなく街ですれ違えば大概の男は振り返る。
そんなサリの長い黒髪はまだ濡れているようだ。遅刻ギリギリと予想するのが妥当か。
底の低いヒールで駅に向かって走るサリは携帯を取り出し、手ブレに戸惑うこともなく画面の文字を読み終えた後、メールを打ち始めた。


「だと思った・・・ってかアタシも今家を出たの。やっばい遅刻するぅ~!!」


そんなメールを打ち終え携帯をバッグに投げ捨てる。
元陸上部のエースだったと噂では聞いていたが走りのフォームがなんとも美しい。
ガードレールもハードルを越えるかのように軽々飛び越え、駅に辿り着く為の最後の信号を渡る。
その歩道には所狭しと置かれている自転車。これにサリは最近苛立ちを覚えていた。


「もう~!!すっごい邪魔なんですけど!!持っていくならアタシの自転車だけじゃなくて全部持ってってよ!!」


頭の中で彼女はそう叫んだ。彼女も過去に放置した事があり、それを撤去された事があるらしい。まぁようするに「棚上」なわけだ。
なんでも撤去された自転車を返してもらうのには数千円のお金がかかるらしいのだが、「そんなお金を出すぐらいならもうあんな古い自転車はいらない」これが彼女が出した答え。
自転車でなくても彼女の家から駅まで小走りで5分もかからない場所だったのもあるのかも知れないが、とにかく彼女の性格の一つに「負けず嫌い」は確定だろう。
定期を改札に流し込み駅のエスカレーターを使わず階段でホームまで降りると、都内らしく地下鉄はひっきりなしに次から次へと人を吐き捨てては飲み込んでいる。
そんな流れに逆らうことなく深呼吸を一つしてサリも電車に飲み込まれていった。
まだ電車は走りだしたばかりで駅に近かった為か、地下だというのに電車の中でマナーにし忘れた携帯が周りの空気も読まずに元気に歌いだす。


「だったらまたあそこで会っちゃうかもねぇ(笑)。いや、でもなんか今日は会わない気がするぞ(笑)。理由はなし!!」


なんとも気が抜けるメールの確認を終え、景色の変わらない地下鉄の窓に映る車内の様子をぼんやり眺めていた。

 

(4)

7時57分


「またやっちまった!!なんで時計ってやつはいっつも勝手に止まってるんだよ!!」


また面白い事を言うものだ。彼には自分を責める能力が備わっていないらしい。
まずはいつも通りに寝ぼけ眼でテレビをつける。


「今日の山羊座のアナタの運勢は大凶!!そんなアナタはいらないものをゴミ袋に入れて処分しましょう♪ラッキーカラーは赤。青色は今日は避けてね♪」


アナウンサーとは思えないほどのアイドル的なルックスをした女性が笑顔で彼に大凶をつきつけた。
確かにいらないもんだらけな家だとは私も思う。最近行ってないが、ちょっと見に行くのが恐いぐらいだ。


「あぁ~・・・そういやゴミ袋も切れてたんだった・・・今日の帰りにコンビニで買わなきゃ・・・」


彼は寂しそうにポツリと呟いた。
相変わらずな部屋で、相変わらずな行動で、相変わらずな文句を言いつつ部屋を飛び出し、相変わらずな電車に乗り込み、相変わらずな乗客観察。
だけどそんな彼の行動パターンに一つ新たな行動が増えている。それは彼女とのメール。


「着信ありになってた(泣)。今日も起こしてくれたのにごめん!!爆睡でした!!」


時計以外に彼女からのモーニングコールさえもスルーしたらしい。
2年前の「あの事件」の時にはいなかった筈の彼女というものが出来たらしいが、この男のどこに惚れるのかイマイチわからないものである。
遅刻にたいして「これは遺伝だ」らしく、「俺が努力しても治らない」とまで言い切っている。
こんな男にアナタは惚れるだろうか?まぁ世の中には物好きもいるものだ。
そう考えると私の嫁も結構な物好きになってしまうが・・・これは今関係ない事だし忘れよう。

それからさほど間をあけず、無愛想に無音で体を震わす携帯に短い文章が届いた。


「だと思った・・・っていうかアタシも今家を出たの。やっばい遅刻するぅ~!!」


類は友を呼ぶと言うかなんというか・・・。
モーニングコールをした当人が遅刻しそうになっては本末転倒ではないのか?彼達の相性は悪くないかも知れない。

そんなメールに彼はこう返す。


「だったらまたあそこで会っちゃうかもねぇ(笑)。いや、でもなんか今日は会わない気がするぞ(笑)。理由はなし!!」


「アレ」とか「ソレ」とか「いつもの」とか「あそこ」とか、恋人同士や夫婦などにしか分り得ない簡略語を用い文章を書いた。
そしてどうやらこれで彼の朝の一連の行動は終了したのか、ヘッドフォンの中の音楽に耳を傾け、次々に描かれていく景色をぼんやり眺めていた。

 

(5)

8時23分


「それじゃ行ってくる」


玄関先で嫁にキスをして出掛けるこのジェントルメンの名は「川上 慶一」。つまり私自信だ。
歳のわりには若く見られるし、顔立ちも良い方だと自分では自負している。
この時間に家を出たのでは会社に着くのはギリギリなのだが、どうしても私は朝が苦手だ。


「時計は勝手に止まってるし、嫁のモーニングコールなんてとっくの昔になくなってるし。」


似たようなイイワケをどこかで聞いた気もするが?
とにかく家から駅まで通いなれた道を行くこと数分。
そこから地下鉄で20分もあれば会社には辿り着けるし、この日も私は遅刻を免れるのだろう。


「自慢じゃないが、遅刻しそうになった事は数えられないほどあるが、遅刻は数える程度しかないのだ。」


たしかに自慢にはならないことであるが、ちょっと言いたかったのだ。
こんな私でさえそれなりの地位につけるのだから、日本の企業ってものは案外適当なのかも知れない。
途中、電車の車内アナウンスで、乗り換えの路線の一つが車両故障の為に運転を見合わせているとか言っていたが、私には関係の無い駅だったので無視して車内で小さくなり人の迷惑にならないように新聞を読んでいた。
何事もなく無事に会社に着いたのは8時43分、これでもいつもよりは5分は早いが褒められたものでもないな。
受け付けに笑顔で挨拶をし、エレベーターに乗り込んだ。


「う~ん・・・やはりもう少し早く家を出るべきだな・・・」


私は次の朝には忘れる反省を今日もエレベーターの中でしていた。

 

(6)

8時32分

いつもの乗り換えの駅に着いた。ここからが彼の本領発揮。走らなきゃ到底間に合わない電車に乗り込む為に全力疾走。
いつぞやの事件の時にコツを掴んだとかなんとかで、あれからは確実に1本前の電車に乗り込んでいるらしく、彼が言うには「全勝だ」らしい。
勝ち負けの理由はよく分からないが彼には勝ちなのだ。
まぁその前に朝起きる事が出来ない時点で「全敗」って考えた事はないのだろうか?
そして彼は今日も8時34分前には乗り換えのホームに辿り着いたのだが、一向に電車が到着する気配が無い。
よく見るといつもよりホームが人でごった返している。
駅案内の看板付近に立っている、小さなカバンを肩からかけた見ず知らずの気の優しそうなおじさんに彼は声をかけた。


「なんかあったんですか?」


「ん~?隣の駅で車両故障があったとかなんとかで安全確認中って駅員が言ってたよ。こんな時間に困っちゃうよねぇ~。」


見た目と同様に優しくおじさんはそう答えた。


「そうなんですかぁ~・・・困りますよねぇ~こんな朝の急いでる時に」


「まぁすぐに運転再開するだろうし待ってるしかないだろうねぇ」


「ですね」


軽く御礼を言い、とにかくホームで電車の運転再開を待つことにした。


「こりゃ完全に遅刻だわ・・・車両故障ってイイワケにつかえるのかなぁ・・・」


頭の中では会社に遅刻について連絡する時のセリフを考えていた。
だがそんな事よりもとにかく早めに連絡をするのが吉と考え、纏まらない頭のまま会社に連絡することにした。


「車両故障の為に電車が動かなくなってしまい遅れてしまいそうです。はい、えぇ、分りました。すいません失礼します。」


なんのひねりもない説明文をそのまま言ったわりには、意外と会社側はこのイイワケをすんなり聞き入れてくれた。


「今日の占い当たってるよ・・・この電車のカラーは青だもんなぁ・・・」


彼は変な感心をした。
それから直ぐに無愛想なアイツが体を振るわせたので、会社からやはりお叱りがきたのかと覚悟を決めたが、それは彼女からのメールだった。


「なんか車両故障の電車に乗っちゃったみたい・・・もう絶対遅刻決定(泣)。そっちは乗り換え大丈夫だったのかなぁ?」


この地下鉄を彼女も利用していて、彼がこの駅から乗り込んだ際に数回彼女を見かけた事が二人の恋の始まりだったらしい。
なんとも青春な話ではないか。いや、ただのナンパと言う方が正しいような気もする。


「実は今サリが乗ってる電車をホームで待ってるところです(笑)。って事で俺も遅刻確定ですな。今日の朝はなんだか会わないような気がしたのになぁ俺の勘はハズレ(笑)。いや会いたいから良いんだけどね。」


そう打ち返し、彼は駅案内の看板にもたれかかりヘッドフォンをした。

 

(7)

8時32分


「ただいまこの電車にて車両故障が発生しました。安全確認の為運転を見合わせております。お客様には大変ご迷惑をおかけしますが、もうしばらくお待ち下さいますようお願い申しあげます。」


カンペに書いてあったセリフを棒読みするかのような駅員のナレーションがスピーカーから流れる。


「なんか車両故障の電車に乗っちゃったみたい・・・もう絶対遅刻決定(泣)。そっちは乗り換え大丈夫だったのかなぁ?」


携帯にそう打ち、彼女は車内で運転再開を苛立ちながら待っていた。
すぐ後マナーモードに切り替え体を震わすだけになった携帯にメールが届いた。


「なんだか自分だけじゃないってホッとしちゃう私はいけないのかしら?」


彼氏からのメールを読んでサリはそんな事を思っていた。

言葉は聞こえないけど、乗客の一人が駅員とホームで言い争ってるのが車内から見えた。
だけど自分には関係ないと、いつ動くとも分らない車内でヘッドフォンをした。

 

(8)

あれから何分が過ぎただろうか?
いまだに運転再開の目処が立たない電車がいつ来るのかとホームの最後尾からトンネルを除きこんで見る。


「よくもまぁ~人間ってこんなもん掘るよなぁ~・・・なぁ?そう思わない?」


永遠に続くトンネルを眺め彼は隣で電車を待つ学生に話しかけた。
これだけ遠慮知らずで人見知りしないからこそ、電車で会うだけの彼女にも話かけられたのだろう。


「そういえば俺が乗る電車は上り電車。それが車両故障なのは分かるけど、なんで下りの電車も一向にこないんだ?」


彼は少し違和感を覚え、サリにメールを送る。


「下りの電車もこないんだけど変じゃない?そっちはどう?」


すぐにサリから返事が。


「あぁ~そう言えば下りも来てないね。2台同時に車両故障とかちょっとあり得ないねこの鉄道会社(怒)。」


彼もすぐに返す。


「だよなぁ~・・・最近電車の事故とか多いし、勘弁して欲しいよマジで。で、そっちの状況は変わらないの?」


流石に使い慣れてる携帯だけあって、返事が早い。


「う~ん・・・なぁ~んか電車を点検してるようには見えないんだけどなぁ~・・・駅員さん乗客に怒鳴られてるし・・・」


「メールだと途切れ途切れになるから一回電車から降りて、電話頂戴。」


彼がメールを送ると数秒後には着信が。


「もしもし?電車降りたよ」


「わざわざ悪いね」


「ううん、でもなんか変だよ?さっきから点検とかしてないっぽいもん。なんかただ電車を止めただけみたいに思えるんだけど・・・」


「そっか・・・下りの電車も来ないし、ちょっとおかしいぞこれ。」


「あ、なんか駅員さんに詰め寄ってる人に駅員さん変なこと言ってるよ。」


「お、もしかしたら答えがでるかも?」


「ちょっと待ってね・・・」


数秒間か数分か、携帯独特のノイズの音と周りの雑音だけが耳に届いた。

 

(9)

「やっとか・・・。」


男はそう言うと辺りを見渡した。


「折角私が犯行声明文を出したのに鉄道会社は余程被害拡大を望んでいるんじゃないのか?」


男は頭の中で話を続けた。


「時間はとっくに過ぎているのに、今更電車を止めるとは・・・まぁ処置の遅さを責めてもしょうがないが、被害者の人数が増えるのは私のせいではないな。私なりの最後の偽善だったんだが、まぁもういいだろう。ここらの他人には恨みは無いが、私の最後の実験に付き合ってもらうとするよ。」


そう言うと男は持っていたカバンから一つの小さな缶を取り出した。


「たったこれだけで私の周りの何人の人が死ぬのか・・・その人数を天国・・・いや地獄から数えるとしよう。このプルタブを引き上げるだけでここも地獄に早変わりだ。酸素に触れた瞬間に化学反応を起こし、無臭の毒薬になる。見た目には水と区別がつかないほどの透明な液体だ。この世の中に酸素が無い場所など無いに等しいわけだし、もし私の作ったこの薬品が世界に出回れば恐ろしい兵器になるだろう。戦場で空爆の代わりにこの液体をばら撒いたらどうなる?建物などを壊す事無く人命だけを奪えるじゃないか。人間は酸素から逃れる事は出来ない。なんと素晴らしい発明じゃないか。」


男はそんな恐ろしい薬物を作り上げた自分に誇りを感じているのか、缶を自分の目の高さまで上げ含み笑いをした。
罪の意識は微塵も感じられない表情だ。


「犯行予定が多少ずれてしまったが、そろそろ始めるとするか。」


時刻は8時40分を回っていた。

 

(10)

「やばいかも慶二。」


「どうした?」


「今盗み聞きした事が本当かは分からないけど、なんか脅迫文が鉄道会社に届いたとかなんとかって言ってる。」


「おいおい、なんの冗談だよそれ。」


「ちょっと待って。アタシが直接駅員の襟首掴んででも聞き出すから、すぐに電話するね!!」


そう言うとサリは一方的に電話を切った。


「なんじゃそりゃ・・・んなドラマみたいな展開ありですか?ってか襟首掴んでって・・・怒らしたら恐いんだなサリって・・・。」


慶二は独り言を呟き、サリをなるべく怒らせないと心に誓った。


「ちょっと待てよ?その脅迫文がどんなもんかは知らんが、上りも下りも来ないこの駅がなんだか一番怪しいって事にならねぇ~だろうな?ってか絶対この駅ヤバイって。」


慶二は余計な勘のせいで、勝手に不安に陥った。
ここにいても埒があかないし、とにかく一度外に出た方が良いと改札を目指す。
そこで見た光景は驚くほどの人、人、人。
電車が来ないせいで、通勤を足止めされた人達がバスやタクシーを欲して地上を目指しているのだろう。


「おい!!なんで出口が全部封鎖されてんだよ!!」


「ちょっとどういうこと?事情を説明しなさいよ!!」


駅員に向かって猛抗議する人達が改札を占拠していた。


「え?出口が封鎖?なにそれ?ありえなくない?」


慶二も頭で他の乗客と同じような事を思ったが、すぐに改札から出るのは無理と踏み、いつもだったら犯罪行為であろう改札とは無関係の柵を乗り越えた。
一番近くにある地上に出る為の階段の前にはシャッターが下りていた。
そのシャッターを叩く人もいるが、そんなに簡単な事でシャッターが開くならそれはシャッターの役目にならないだろう。
この駅の出口は全部で10ヶ所ほどあるはずだが、多分この感じだと全部封鎖されてるような気がする。


「おいおい・・・マジでこれシャレになんねぇ~ぞ・・・なんだ?なんか俺この光景初めてじゃないような気がするぞ・・・。ドラマの見過ぎか?」


何かひっかかりを覚えながらも慶二は、サリから連絡が無い事を思い出し携帯をチェックする。
ホームにいた時は電波があったのだが、ここでは圏外。
アンテナはホームに立っているだけで、駅の地下通路には立っていなかったらしい。
慌ててもう一度ホームに戻るとすぐサリに電話をした。


「ちょっと携帯繋がらないじゃない!!」


「ごめん!!ちょっと電波が悪い事に気付かなかった」


「大変だよ!!若い駅員じゃ埒が明かなかったから、この駅で一番偉そうな人を捕まえて聞き出したら、その駅に薬物がばら撒かれたかも知れないって・・・」


「へ!?薬物って?その昔のサリン事件みたいに?勘弁してくれよ!!で、何?入口封鎖ってもしかして・・・」


「うん・・・まだ薬物が本当にばら撒かれたのか、確かじゃないけど、被害を最小限に抑える為にその駅は隔離されてるって・・・」


「よくあるB級映画みたいな事が本当に起きるのかよ・・・おいおい勘弁してくれよ。ってかここの駅員達多分本当の事聞かされてねぇ~ぞ?自分の命の危険な時に普通に客ともめてるし。客にたいして車両故障だの一点張りだし。」


「今、こっちの駅では全員に事情を説明してて、駅から出される事になるみたい。さっき友人にメールを送ってこの事をテレビでやってるか聞いたんだけど、まだなんにもそんなNEWSはやってないって・・・。」


「そうか・・・なんだか分からないけどその脅迫は真実な気がする・・・。とにかく今はこの場をどう乗り切るかを考えるよ。」


「あ!!それとここから先は問い詰めてもいないのにその偉そうな人が色々説明しだして、バイク便で朝の8時指定で封筒が駅の本社に届いて、その中に脅迫状って言うか犯行声明文がはいってたんだって・・・」


「随分手の込んだ事してくれるじゃね~かよ・・・でも、それなら犯人はバイク便の配達の人に顔を見られてるんじゃね~のか?」


「そうかも知れないけど、その文章がね、『私の最後の実験にアナタの会社の駅を一つ借りることにした』とかなんとかって・・・」


「それがこの駅ってわけだ・・・もう勘弁してくれよ。」


「だから、被害を最小限に抑えたいならそれなりの処置をしろって、犯行時間は朝8時30分だって・・・」


「ちょっと待った。今もうそんな時間とっくに過ぎてるぜ?バイク便で8時に着くならここの乗客も全員非難させられるぐらい余裕があったはずじゃね~のか?」


「アタシもそれは駅員に詰め寄ったわ。そしたらなんでもバイク便の配達の人が道を間違えたのかなんなのかで本社に荷物が辿りついたのが8時をとっくに過ぎてたのが原因だとか・・・本当かは分からないけど。」


「何?もう非難させてる時間が無いし、薬品ばら撒かれてるかも知れないからここの乗客は見放したと?ちょっと酷すぎる処置じゃね~のかそれ?」


「理由はもう一つあって、その薬品が感染性のウイルスだった時の事を考えての隔離みたいなの。もし誰かが外に出たら被害の拡大は避けられないからって・・・」


サリはここまで気を張って涙を堪えていたのだろう。その言葉を口にした瞬間涙が溢れ出したのか携帯の向こうの声が聞き取りづらくなった。


「とにかくサリはこの事を俺のオヤジにも知らせてくれ。きっと力になってくれるから。イタズラかも知れないしさ。だって俺ピンピンしてるじゃん?」


慶二はそう言ってサリを励ましたが、自分の中ではコレがイタズラじゃないと思う気持ちの方が強くなっていた。


「そうだよね・・・分かったわ。おじさんに連絡したらアタシもすぐにタクシーでその駅に向かう。」


「おいおい待て待て!!なんでわざわざ自分から巻き込まれに来るんだよ。大丈夫なんとかなるから。」


「でも!!・・・そうだよね・・・今アタシが行っても出来る事はないし、とにかくおじさんに連絡して、後はおじさんに従うようにする。」


「おう。頼んだよ、多分もう電話に出るどころの騒ぎじゃないかもしれないし。」


「ホントちゃんと帰ってきてね?やだよ?これが最後の電話だったとか・・・。」


「おいおい!!勘弁しろよ大丈夫だから!!」


「・・・分った愛してるからね。」


「俺もだっつ~の!!じゃあ切るぞ。」


電話を切った途端慶二は頭を抱えた。


「うぉ~!!カッコつけても何も案が浮かばねぇ~!!マジでどうするよ俺?本当に何も起こらないでくれ・・・。」


情け無いが、本当は不安で一杯だった。神頼みに近い事を頭で描いたりもした。


「でも、8時30分になってもなんにも起きなかったんだからただのイタズラだったって事だよな?そうだよな?それでいいんだよな?」


と、無理矢理にも話を良い方向に向けようとした時だった。
あの気の優しそうなおじさんが何のためらいもなくその場に倒れた。
普通人間は倒れる時など条件反射で頭を守ろうとするものだが、そんな行動は一切なく、地面に強く頭を叩きつけた。


「おい!!おじさん!!」


すぐに駆け寄った慶二が見たのは、白目をむいて口から血を流し痙攣を起こしているあの優しかったおじさんであった。
気付かぬうちに優しそうなおじさんや慶二の周りは何かの液体で濡れていた。
優しかったおじさんはすぐにまったく動かなくなった。脈もなさそうだ。


「これは昔にあった毒薬の無差別殺人と一緒じゃないの!?ちょっと!!ちょっとここから出してよ!!」


余計な火付け役のおばさんが全てを言い終わる前に駅構内はパニックに陥った。
我先にと階段を駆け上がる人の群れ。
蹴落とされる人、罵声を浴びせる人、叫び声・・・完全な地獄絵図が完成していた。


「おい!!みんな落ち着けよ!!おい!!ゴホゴホ!!おい!!お・・い・・・」


激しい眩暈で意識が遠のく中で見たのは、自分の目の前に転がる青い空き缶から流れる透明の液体だった。
携帯が微かに震えたような気がした・・・。

 

(11)

8時48分

私は会社に着くといつも通りに無音のテレビでNEWSを見ていた。
そして、先程起こった事件が報道されるやいなや、すぐさま息子に電話をしたが、電話は留守番電話になった。
着信が鳴った後に留守番電話になるということは、電波がある証拠。
どんな事情で電話に出ないかは定かではないが、NEWSを見ているとよからぬ事ばかりが頭をよぎる。
そのすぐ後だったろうか、サリから私に電話があり、案の定息子が事件が起きたかもしれないあの駅で足止めをされていると聞かされた。
他にもその事件の経緯まで全てサリはとにかく順を追って事細かに説明してくれた。


「俺に何が出来る?」


私は自分に問う。


「とにかくあの駅に向かうべきだ。」


最終的に私が出した答えはいたってシンプルなものだった。
サリがどうしても一緒に連れて行ってくれと言うので、一緒に行動する事にした私は、すぐにタクシーに飛び乗り、あの報道された駅に向かった。
サリとはそこで合流する。

私が駅に辿り着くと、私と同じような理由で駅に来た人達、厳戒態勢の警察、救急車や消防車、真っ赤なサイレンでごったがえしていた。
そこに加えて報道陣の数も尋常じゃない・・・こういう時の報道陣の態度には呆れてしまうほどだ。


「家の娘がこの駅の中にいるんです!!」


「お気持ちはお察ししますが、これ以上駅に近づくのはまだ危険です。」


そんな口論を続ける何処かの親族と警察を隣でカメラが撮り続ける。


「だとしても行かせてくれって言ってるんだよ!!」


「それは出来ません。国からの命令です。」


感情が昂る親族を冷静に応対する警察。
いまだに回し続ける報道陣のカメラ。


「国だろうがなんだろうが後でいくらでも罰は受ける!!だから今すぐここを通してくれ!!」


「少し落ち着いて下さい。ここを通すわけにはいかないんです。そのまま駅に入ればアナタも被害者になってしまうんですよ。」


「もし娘に何かあったらお前がなんとか出来るのか?お前の娘が中にいたらお前はそんなに冷静でいられるのか?」


「残念ながら、どんな理由であろうとこれ以上の被害拡大を避ける為です。理解してください。」


そんなやりとりを少し後ろで聞いていた私もあの親と同じ感情だったが、打つ手がないと悟りその場に座り込んだ。
すぐ横に先程ここにやって来たサリも座り込み、どうしていいか分からずに私の腕にしがみついて泣いた。
私はそんなサリの肩を抱いてやる事で精一杯だった。

それからすっかり空が暗くなるまで救助活動は続いた。
救い出すといっても、既に息の無い人もいたし、生きてはいてもかなり重症な人もいる。
咳き込むぐらいで済んでる人は不幸中の幸いだったと言ってもいいだろう。
薬品がばら撒かれた位置からどれだけ離れていたかで症状がかなり違うようだ。
だけど、どんなに重症な人であっても駅から出る時に、身に付けていた衣類なども全て脱がされた代わりに簡易の衣類に着替えさせられ、最後に体に付着した薬品を綺麗に落とす為のスプレーを全体に浴びせられている。
ばら撒かれた薬品が毒物ではあったがウイルス性のものではなく、空気感染を起こす可能性は無いと言う事も既にテレビで報道されていた。
感染はしないが、衣類などに染み付いた薬品をかげば具合が悪くなる、酷ければそれ以上の症状が出る可能性がある為の処置だと救助隊は言う。
そして救助された人の中に自分の息子がいないか私は探した。
見落としたせいで既に病院に運ばれているかも知れないとサリは片っ端から病院に電話し、「川上慶二」の名前の患者がいないか探した。
サリは慶二の携帯に電話をしてみたが直通で留守電に切り替わった。


「ただいま電話にでれません!!用のある方も無い方も田村正和のモノマネでメッセージをどうぞ!!」


慶二の留守電は場の空気を考えないなんとも明るい声だった。
被害者総勢千人弱、その内死亡者が現在だけで二桁を超す大惨事だった。
だけど、とうとう救助された乗客達の中に慶二の姿はなかった・・・。
気付けば雨が降り出していた。

 

(12)

22時34分

サリは自宅に戻っていた。
自分が出来る事は全てやり尽くし、それでも慶二が見付からなかった事がサリに少しだけ絶望と希望を与えていた。


「慶二は何処かできっと生きてる・・・」


サリは、机の上で笑う慶二の写真を見ながらそう言い聞かせた。
自宅の電話には留守番電話が3件入っていた。


「もしもし?ちょっとサリちゃん?携帯にも何回も電話してるのに繋がらないじゃない。アナタ今日のNEWSになってる電車は利用してないの?とても心配です。連絡下さいね。」


実家の母親から、事件が起きてから2時間以内の留守電だったらしい。
ちょっと母親と話してる暇がなかった為、携帯の連絡も無視していたのが原因だ。
他の2件も母親からの連絡だった。
慶二が見付からずにここに戻る時にはすでに実家に連絡を入れてるのだが、サリの自宅の留守電では母親がいまだに心配そうな声で連絡を欲していた。
その留守電を聞いてふと思い立ちサリはPCを立ち上げた。
もしかしたら慶二から何かメッセージが届いてるかも知れないと感じたからだろうか。
だけどそんな奇跡は起こらなかったし、慶二が日課にしていたブログも昨日の日付で更新は止まっていた。
サリはネットの検索エンジンで今日起きた事件を検索してみた。
一つのページでその具体的な被害者人数や事件が起きたであろう推定時刻などが書かれていた。
サリがそらで記憶していた死亡人数よりもまた若干増えていた。
サリはそれを読む事で今日起きた事が夢ではないんだと最後のとどめを刺された気分になった。
その他にも検索エンジンにひっかかったサイトがいくつかあり、サリはその一つに目を止めた。
それは赤の他人のHPなのだが、検索エンジンの紹介文に意外な言葉があったからだ。


消えたサラリーマン


サリはすぐにそのページにジャンプした。
そしてその日記をサリは食い入るように読み始めた。


いやぁ~・・・今日は凄い体験をしてしまいました。
テレビのNEWS等で知ってる方も多いかも知れませんが、地下鉄に薬品がばら撒かれたんですよ。
で、その駅になんと僕もいたんです(泣)。
本当に運が良いと言うかなんと言うか僕は薬品を吸い込む位置にいなかったっぽく、救出された後も軽い検査だけで今現在は自宅に戻って来れて、この日記を書いているってわけです。
事件に巻き込まれた本人しか分かり得ない、報道陣も知らない事件当時の様子をちょっと書いてみます。


サリはブログを読み終えた後、モニターの前で悲しいとも嬉しいともつかない涙を流した。


「間違いない・・・絶対慶二だよ・・・だけど消えたって何?この学生が言ってる事は嘘とは思えない。だって慶二は何処にもいないんだもん・・・。」


空を眺めサリは呟いた。
雨は強さを増していた・・・。

 

(13)

23時38分

サリを家の前まで送り、自宅に帰った私は自分の知ってる限りを嫁に説明した。
勿論嫁は泣いたが、私は何処かで希望を持っていた。
それはやはり息子には不思議な力があるという核心めいたものがあったからだ。
被害者がすべて救出された中にアイツがいないってのがすでに一つの期待に変わっている。

家では何度も今日起きた事件を報道していた。
それを無言で見ている嫁の肩を2回ほど叩いた。


「大丈夫、アイツは生きてる。」


そう言い私も嫁の隣に座りNEWSを見ていた。
キャスターは坦々と事件の説明をしている。
その中に私は初耳の情報も混ざっていた。


「事件現場で発見された缶の中から今回事件に使われた薬品が発見された事から、犯人はこの缶に薬品を入れ持ち歩き現場にばら撒いた可能性が強いようです。この薬品の分析結果ですが、一般人が簡単に購入できるような品物ではなく、犯人は医学などに精通のある人物で、自分自身もその類の職についていた可能性が高いようです。」


その時背中で電話が鳴った。


「もしもし、夜分遅くにすいません、サリです。」


「どうした?やっぱり一人じゃちょっと辛いか?私の家にでも来るか?」


「いえ、私のことなら心配いりません。ただおじさんに今から言うサイトの日記を読んでみてほしくて。」


「なるほど、分かった。」


そんな短い連絡を終え、私はサリの言うサイトの日記を直ぐに読んだ。


「やはり・・・アイツは生きている!!」


私の中で希望が確信に変わった。
だけど疑問も残ったままだった。


「だとしたらアイツは今どこにいる?何をしているんだ?」


時計の針は天辺で一つに重なろうとしていた・・・。

 

<後編へ>

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<数時間前の景色> [短編]

(まえがき)

「僕は朝が大嫌いだ」
この一言で大体の人間性が分かるから恐ろしい。
 
「私は朝が大好きだ」
こんな人がいたとしよう、もう明らかに僕とは相成れ無そうな響きではないか?
 
もう一度言うが、「僕は朝が大嫌いだ」。
ましてや冬の場合は「大嫌い」の前に、「最高に」が付いてくるキャンペーンが開催されてしまうほどだ。

「僕は朝が大嫌いだ」には他にも意味を含んでいる。
それは、一日が終わってしまうからだ。
いや、本当に終わるわけじゃない。頭の中での話しだ。
大体人間がやるべき事は決まっている。
想像も付かない現実とはなかなか襲ってくるものではないわけだ。
朝ベッドの中でスケジュールを思い出す。
大体その通りに一日を過ごす。
まるで同じ日を二回味わったんじゃないかと錯覚する事もあるぐらいだ。
「デジャビュ」と呼ばれるものを体験した事はないか?
僕なりの解釈でしかないがそれは、朝ベッドの中で「一日が終わってしまう」人が体験してるんじゃないだろうか?
僕はそんな気がしている・・・。

 

(1)
 
7時57分
 
時計を叩いた後、また僕は夢の中へ旅しに行ってしまった。
まぁその夢が面白ければある意味ではその旅も「ありな方向」にしてやりたいが、どうも「最悪」な夢だった。
断片的な記憶を辿るのもためらわせるほど、僕は脂汗をかいていた。
まぁ良く覚えてない事だし、さっさと忘れるのが正解だ。

いつものように一先ず時間を確認して驚いて見せた後、余裕を持ってシャワーなどを浴びる時間は無くなったが、まだ間に合う可能性はあると軽く深呼吸をした。
クセでテレビを付けた。
まだ画面は真っ暗なまま耳に飛び込んできた文章は、

「・・・犯人は少し興奮状態で、今は説得にも応じない姿勢です。誘拐された子供の安否が心配されます・・・」

早朝からテレビでは、誘拐事件を取り上げていた。
他人事にしたいわけじゃないが、朝からちょいとヘビーだ。
チャンネルを回したが、その誘拐のニュース以外ではアニメぐらいしかやってない。
どっちにしろ見てる暇はないし、テレビはすぐに消した・・・
 
そう、今日実は大事な面接の日なのだ。
しかも、自分の受けた会社で唯一最終面接まで残してくれた奇特な会社なのだ。
ぶっちゃけてしまえば親父が働く会社だったというなんとも情けない話なんだが・・・。
「親父の世話にはならねぇよ!!」って家を飛び出して3年、もう世話になってる自分をどう受け止めるべきかは後で考える。
昨日あれ程自分に「明日だけは必ず起きること!!」と魔法をかけた筈だったのだが、僕にはそんな力が無かったらしい。
奇妙な出来事ならあったんだが・・・ここではその説明をしてる時間さえも惜しいのだ。
なぜ面接を早朝からするんだと逆ギレしてみても、とにかく9時までには会社に着かなければいけない事だけは拭いようの無い事実だ。
 
洗面台でカラスの行水よろしく石鹸も付けずに顔を洗い、シェーバーで髭を剃る。
昨日床に投げ出したままのスーツ、シャツ、ネクタイの三点セットを素早く身に付け、髪の毛はワックスで適当に済ませた。
その隣の小さなテーブルにはコンビニで買った弁当の食いかけや、カップラーメンの空が僕を迎えてくれる。
「我ながら素晴らしい一人暮らしだなぁ・・・」なんてつぶやいてみた。
 
万年床の煎餅布団を踏みつけながら目の前の鏡に映る自分は、何処かだらしない空気を羽織っているがもうしょうがない、遅刻するよりはなんぼかマシだろう。
シャツの右の襟の折れ曲がりを気にしつつ、手には書類の入った鞄を忘れずに持って玄関を飛び出した。
 
家の施錠をする時間も惜しいぐらいに急いでいたんだが、良く考えたら電車が来る時間は決まっている。
玄関を飛び出す必要もなかったわけだ。
ここで急いでも乗る電車は同じと気付き、ポケットから鍵を取り出ししっかりと家の施錠をした。
家から駅までは運が良い事に、走れば30秒で着く距離だ。
現在の時刻は8時2分。とにかく自分の出来る限界が、結果、この時間になったわけだし今更ジタバタしても一本前の電車に乗れるわけでもない。そう、何も変わらないのだ。
目覚めた時点で電車の出発する音がしてたわけだし、その次の電車には乗れるわけだから、最速で用意したと言える。
一人で納得し満足した。
もう一度鍵をポケットにしまい、駅まで小走りした。
予定通り、8時8分に到着する電車に関心しながら、その電車に僕も乗り込んだ。
一本前の電車は田舎電車のせいだろうか、7時58分には出てしまっている。
もう一本ぐらいは、7時58分と8時8分の間に来そうにも思えるが、現実は意外とこんなもんかな?と。
 
電車に乗車している回りの人の顔は当たり前だが、知らない人ばかりだ。
金髪の朝帰り風の兄ちゃんや、携帯を神業のように扱う学生、恥ずかしげもなさそうに化粧を続けるOL、昨日の酒が抜けてないようなサラリーマン。
ただ一つだけ「殺伐」という統一感があるだけだ。
そして電車の中では必ずヘッドフォンをするのが僕のルールだ。
フェイバリットアーティストを僕なりのベストで聞くのが電車の中での唯一の楽しみなのだ。
「僕だって頭の中ヒーロー描いて 憧れて悔しくって・・・」軽快なサウンドに乗せて聞こえてくる歌詞が僕の感情とダブる。
僕もヒーローには憧れるし、今でもそれは変わらない。
善悪の境目が無いこの時代のヒーローって一体どんなものだろうと考えたりもする。
ただ、この年になると「ヒーロー」って言葉を口にするのもなんか恥ずかしくなってた・・・。
 

(2)
 
僕は、「川上 慶二」と言う21歳のフリーターだ。
因みに親父は「慶一」。安易だが長男だったらしい。まぁそんな事はどうでも良いが、自分の息子に「二」って付けるのはどうなんだ?しかも僕は一人っ子だ。
自分の方が強いんだぞってアピールでもしたかったのだろうか?
名前だけ見ると親子と言うより兄弟と言われそうだが・・・そんなところからオヤジの人間性を問いたくなる。
 
僕の趣味はサッカーで、見るのではなくやるほうだ。今でも友人とサッカーチームを結成しているぐらいだし。
プロを思い描いた事だってあったし、今でも諦めたわけじゃない。
その証拠が今日の面接だ。他の落ちた会社も全て「サッカーチーム」を持っている会社だったのだから。
「サッカーチーム」と言ってもプロのではないんだが、まぁサッカー好きと言う事は分かってもらえるだろうか?
高校時代、全国大会ベスト4にもなったし、レギュラーでもあった。
最後のは自慢だ。
 
などと言っているうちに乗り換え予定の駅に着いた。
時間は8時32分。
ここから走れば次の乗り換えの電車には、歩いたんじゃ間に合わない電車に乗れる可能性がある為、ヘッドフォンステレオは鞄に投げ捨て、走り出した。
この一本を早める事が出来れば、面接前に軽い休憩が入れられる計算だ。
肩で息して面接を受けたんじゃ、間に合ったところであまり期待は出来ないだろうし。
8時34分の電車の次は、8時39分。
この5分が僕にはとても重要な問題だ。
とにかく僕は全速力で駆けていた。
まるでサッカーのオフェンスでもしているような気分だ。
足元の見えないボールを巧みに操り、ディフェンダーを次々と抜いていく。
「おっと日本の川上、敵陣を一人で切り開いていく~!!」自分で実況までつけて乗り換えの電車と言う名のゴールを目指した。
改札を抜け最後の階段を3段抜かしで駆け下りるが、目の前で無常にも扉は閉められた。
「ゴールキーパーのナイスセービングと言ったところか・・・」なんて冗談を言ってる場合ではないんだが。
電車が行ってしまったんだからしょうがない。
普通に考えたら間に合う方がおかしい乗換えなのだからと自分を慰めた。
肩で息をしながら次の8時39分の電車に乗り込み、目的の駅までヘッドフォンから流れる声に合わせ頭の中でまたユニゾンをした。
「僕だって頭の中ヒーロー描いて 憧れて悔しくって・・・」
 

(3)  

8時50分
 
目的地に電車は滑り込んだ。
地下鉄から吐き出されて改札をくぐり、エスカレーターよりも早く地上に出た。
時間は8時52分・・・。
ここから歩いて約8分のところに会社はある。
イコール走ればまだギリギリ間に合う計算は通用しそうだ。
駅を出てすぐ左にある大きな交差点の信号がなかなか変わらない事も承知してるし、近道も確認済みなので、自分なりのルートで会社を目指す。
信号を回避する為、距離的には少し遠回りになるが実は会社までの時間を短縮できる、駅から右に向かった先の歩道橋を駆け上がったんだが、その時に疑問が生まれた。
見下ろした交差点で渋滞が起きているのだ。
同じ目線では気付かなかったが、俯瞰で見るとその状況が手に取るように把握できた。
しかも歩行者までがいつも以上に集まっている。
いつもは流れこそ多いが、そこまで渋滞をする場所ではない為、それが何か大体見当がついた。
そしてそのすぐ後、サイレンが聞こえて来た。
確信に変わった。
事故だ。
それ以上の事は分からなかったが、誰かが事故にあった事だけは理解した。
野次馬をしてる暇は今の僕には無いわけだし、親父の顔に泥を塗るわけにもいかない、しかも面接官の一人が僕の親父というあまりにも素晴らしいオチまで付いている。
とにかくその場を後にし、全速力で会社に向かった・・・。
 
どうにかこうにかと言う言葉がしっくりきそうなギリギリ8時57分には会社に辿り着いた。
この時ばかりは自分の逃げ足の速さと、近道を見付けたことを褒めたくなる。
まぁその前に電車に乗れてればこんなことにならなかったわけだから、1勝1敗ってところか。
面接用の書類を受け付けの女性に渡した時に、少し笑われはしたが、間に合ったのだから気にはしない。
満面の笑みで返してやった。
僕から遅れること2分ぐらいだろうか?僕よりも本当にギリギリで他の面接者がもう一人間に合ったようだ。
勿論僕と同じように肩で息をしている。
外見的には運動神経が悪そうには見えなかったので、多分交差点に捕まった口だろう。電車は僕と一緒の電車だったかも知れない。
やはり近道は大正解だ。
僕は「うんうん」と「僕も同じようなもんだから」の意味を込めてその男に頷いて見せた。
その男は親近感を覚えたのだろうか?僕に息を弾ませながら喋りかけてきた。
「知ってる?駅前の交差点で・・・事故があったんだよ・・・」
そう男は息切れをしながら切り出した。
「あぁ、知ってるよ渋滞してたし、救急車が来てたからね」
何のひねりも無しに普通に僕は返した。
「その事故にあったのが・・・どうも小学生を庇った中年らしいよ・・・」
男はまた肩で息をしながら続けた。
「しかも・・・嫌な偶然だよね、その中年の男性は・・・スーツの胸に、この会社のバッジをしてたらしいよ・・・」
そこまで話して男は大きく深呼吸した。
 
・・・なんだか嫌な予感がする。
ここの社員?中年?こんなギリギリの出社?僕の回りで当てはまる人物が一人いるんだ。
僕にそっくりな・・・いや向こうが本家本元の朝にルーズな親父が頭に浮かんだ。
 
他の面接者が面接をしてる部屋のドアを何の躊躇も無く開けた・・・が、親父はいなかった。
それと同時ぐらいだったか、僕の携帯が無機質にやる気無さそうに鳴った。
着信は実家からだ。もう内容は分かっていた。
「慶二?あたしよ!!お父さんが!!・・・」
その話を聞いた自分の息子のあまりにリアクションが冷静であった事に母は違和感を覚えたかも知れない。
会社から面接は先送りにするとの特例をもらい、母から聞いた病院へ急いだ。
今朝僕が見た夢はこれの事だったんだろうか?
 
その時鞄の中で微かに歌う声が聞こえた。
「・・・自分の事さえおぼつかないんじゃ 他人はともかく君さえ守れないんだ・・・」


(4)

あっけないぐらい簡単に親父は死を選んだ。
母親も、僕もまだ病院に着く前に息をひきとったんだ。
僕が病院に着いたすぐ後に母親も僕を追うように病院に着いた。
一番先に病院に着いたのは皮肉と言うべきでないだろうが、あの親父が助けたという小学生の母親らしき人だった。
小学生の母親らしき人は深々と頭を下げた。
初対面ではあるが、僕達が自分の息子を助けた中年の身内だとすぐに感じたんだろう。
礼儀として僕も頭は下げておいた。
病院の先生が言うには、「打ち所が悪かった」と簡潔なコメントだった。
それを聞いて母は当たり前だが泣き崩れている・・・
その隣で小学生の母親が僕の母親に声をかけれずにただ直立不動になっていた。
薬品の匂いがする真っ白い廊下で、母親の泣き声だけが響いていた。
だけど、僕は妙に冷静だった。
そして子供の頃にあった奇妙な事件を思い出していた・・・
 

(5)

親父が居間で新聞を開いている。
テレビでは「天気予報」が流れている。
母親は台所で何か料理をしているらしい。
何気ない家族の朝だ。
僕も自分の真隣の椅子の上にランドセルを投げて自分も椅子に座った。
「お前は俺に本当にそっくりだな」
親父が言う。
「寝ぼすけなところもそうだが、寝癖の位置まで同じなのは俺が恥ずかしくなる程だ」
そういう親父は何処か嬉しそうだ。
「母さんはとっくの昔に俺を起こしても無駄だからって起こしてくれなくなったしな」
と目の前の僕に言ってるふりして、台所の母親の背中に言っている。
「あらあら?いまだに毎日起こしてますよ?あなたが起きないだけでしょ?」
流石夫婦と言うべきか、自分に言われたとすぐに察知した母親は台所から顔を出して親父の背中に反論。
暖かい、本当に何気ない家族の朝だ。
 
その日学校の体育で友達が大怪我をした。
マラソン大会が近い為に、マラソンの練習をしていたんだが、学校の校庭が狭かったのが原因で公道での練習だった。
友達の大怪我の原因は、曲がり角の死角になった付近から運悪く歩道にバイクが突っ込んで来た為だ。
真昼間だというのに居眠り運転だったのだろうか。
僕の目の前で友達が倒れて行く様を見るまで何が起きたか分からなかった。
病院に運ばれる友達を見て、「もしも僕が友達に声をかけていれば・・・」、「もしも友達の手を掴んでいれば・・・」「もしも・・・」
頭の中で「もしも」があちこちに飛び交い残響し、酷い耳鳴りが起きた。
その耳鳴りに恐くなり両手で耳を塞いだけど、耳鳴りは酷くなっていき、その場にしゃがみこんだ。
見慣れた風景が傾いていく・・・いや、僕がまるでスローモーションのように耳に手を当てたまま倒れていったのかも知れない。
地面と体がまったくの平行になるその瞬間目の前の景色が音も無く「グニャリ」と曲がった・・・
 

親父が居間で新聞を開いている。
テレビでは「天気予報」が流れている。
母親は台所で何か料理をしているらしい。
何気ない家族の朝だ。
僕も自分の真隣の椅子の上にランドセルを投げて自分も椅子に座った。
「お前は俺に本当にそっくりだな」
親父が言う。
ん?
「寝ぼすけなところもそうだが、寝癖の位置まで同じなのは俺が恥ずかしくなる程だ」
そういう親父は何処か嬉しそうなんだが、僕は違和感が体の奥の方から沸沸と上がってくるのを感じた。
この後の親父の言い回しはきっとこうだ、(母さんはとっくの昔に俺を起こしても無駄だからって起こしてくれなくなったしな)
「母さんはとっくの昔に俺を起こしても無駄だからって起こしてくれなくなったしな」
違和感が確信に変わっていく。
じゃあ次は母親がこう言うんだ、(あらあら?いまだに毎日起こしてますよ?あなたが起きないだけでしょ?)
「あらあら?いまだに毎日起こしてますよ?あなたが起きないだけでしょ?」
確信した。
これは「数時間前の景色」だ。
でも何故なんだ?
「もしも」と願ったからか?
そんな簡単なことだろうか?
さっぱり訳が分からないが、とにかく「数時間前の景色」だと言う事に関しては意外と早く受け入れることにした。
小学生とはそんなもんだ。
 
あっさり「数時間前の景色」を受け入れる事で、友達を助ける事も出来た。
ややこしいが、1度目の「数時間前の景色」通りに、2回目の「数時間前の景色」もバイクは突っ込んできた。
バイクの自爆はどうにも出来なかったが、とにかく友達を大怪我から救う事は出来たんだ。
友達にはなぜあの時間あの場所にバイクが突っ込んでくる事を知っていたのか不思議がられはしたが、相手も小学生だ、すぐに話題は別のところに切り替わっていた。
自分を褒めてあげたいのは、その事故が起きる直前まで誰にも言わなかった事だ。
親にも言っていないし、先生にも言っていない。
冷めた小学生と言えるかも知れないが、「信じてもらえるはずがない」って感じていたし、逆に、友達に「いついつにどこどこでバイクが事故を起こす」なんて言ってしまったら、今度は好奇心旺盛な小学生達は馬鹿にしながらもその場所にわざと行きたがってしまい、余計な惨事が生まれる可能性もあったと考えていたんだ。
 
僕は予知夢を見ていたのだろうか?それとも現実に「数時間前の景色」をもう一度経験したのだろうか?
けど、小学生にはちょっと荷が重すぎたらしく、それ以上考えがまとまらなかった・・・
 

(6)
 
子供の頃から十数年使わなかった「もしも」を頭に浮かべてみた。
 
なぜ十数年「もしも」を使わなかったかと言えば、虚しくなるからだ。
「もしも競馬でとんでもない大穴を当てたら?」
「もしもラスベガスで当たったら?」
「もしも宝くじで3億円当たったら?」
大人になっての「もしも」は何故かこんなんばっかりだった。
現実逃避したい、掴めないような夢物語ばかりにすがるのに嫌気がさしたからだ。
結局のところ楽して幸せになりたい、イコール「金」ってのが非常にリアル過ぎる。
僕の「もしも」も似たようなものだった事に一番の嫌気がさしたからだ。
 
しかし今の「もしも」は違う。
あの子供の頃の気持ちでの「もしも」だ。
「数時間前の景色」が見れるように強く願った。
あの頃の耳鳴り以来、例えば飛行機の中での気圧の違いでの耳鳴りや、無音になった時の静けさで起こる耳鳴りさえも背中にゾクッと何かが走るようになり、耳を塞いでいた。
そして今、僕にはあの頃よりも大きな耳鳴りが、何の前触れも無く襲いかかってきた。
咄嗟に耳を塞ぎ、その場にしゃがみこみたくなる位の恐怖と戦っていた。
「頼む、もう一度だけでいい・・・数時間前の景色へ・・・」
自分の声さえも掻き消されそうな耳鳴りに負けないように何度も繰り返した。
 
薬品の匂いのする廊下がゆっくり傾き出したのか?僕が倒れていくのか?
廊下と体が平行になる瞬間、目の前の景色が音も無く「グニャリ」と曲がった・・・。
 

(7)

7時57分
 
カーテンの隙間からこぼれる強い光で目が覚めた。
これが「数時間前の景色」か「明日」なのかこの瞬間は分からないが、とにかく脂汗をかいていた。
 
クセでテレビを付けた。
画面はまだ真っ暗なまま耳に飛び込んできた。
「・・・犯人は少し興奮状態で、今は説得にも応じない姿勢です。誘拐された子供の安否が心配されます・・・」
「数時間前の景色」と同じようなコメントをテレビが話していた。
 
すぐに実家にも電話をした。
3回目のコールで母親が出た。
「はい川上でございます」
余所行き声で電話に出る母親に、「僕だけど親父はもう家を出たよね?」と唐突に聞いた。
 
親父は「生きて」いたし、会社にも向かっていた。
これは「数時間前の景色」と確信した。
 
親父は携帯電話を持っている。
しかし、不運としか言いようがないが、実家から会社まではずっと地下鉄なのだ。
駅によっては繋がるが、事情を説明するような時間は無いだろう。
 
繋がらない親父の携帯の留守電にとにかく自分の見た「夢」を書き殴るように説明した。
「僕だけど、今から言う事は冗談なんかじゃないから、ちゃんと聞いてくれ」
僕はそう切り出して、「会社付近のあのデカイ交差点で8時47分過ぎに、ランドセルの子がいたら何かのはずみで公道に飛び出すんじゃないかと思うんだ。自分の意思か事故かは分からない。だけどそれを助けようとした親父の身にも危険が生じるんだけど・・・でも、でもだから子供が飛び出す前に、そうなる前に子供を止めてくれ!」
もうなんと言って良いか分からなかった。
つじつまがおかしく、矛盾だらけで意味不明な文章にしか聞こえないかも知れない。
だけど僕はその現場を見ていない。
子供のその時の格好も見ていない為一体事実はどうなのか知らなかった。
あくまで人から聞いた噂を信じただけだ。
どう綺麗に説明しようとしても「予知」なんておかしい事だけは確かだったし、何よりも、地下鉄から出てすぐにこの留守電を親父が聞く保障が何処にも無かった。
小学生の頃に誰にも言わなかった自分を思い出しもした。
 
1度目の「数時間前の景色」が夢であろうが現実であろうが構わない。
2度目の「数時間前の景色」を捻じ曲げる必要が僕にはある。
留守電の「運任せ」的なものじゃ解決にならない。
やはり僕が自分の手で捻じ曲げなければいけない。
助けたいってのも勿論あるが、そんな自分で作りあげる感情以前に、正義感の強い親父の「血」がそうさせるんだろう。
 
今回の「数時間前の景色」を受け入れて分かった事がある。
それは、目覚める時間は変えられないって事だ。
1度目に目覚めた時の記憶までしか戻れないと言うなんとも歯痒い事実に気付いた。
 
分かっている事は8時47分過ぎに事故が起きるであろう事実だけだ。
これは間違いないと思える。
1度目の「数時間前の景色」の僕があの駅に辿り着いたのは8時52分。
って事は5分ほど早くあの駅に着きさえすれば・・・現実を捻じ曲げられる可能性がある事もまた事実だ。
 
床に投げ出したままのスーツ、シャツ、ネクタイの三点セットをのうち、「ネクタイ」は省いて素早く装着し、髪を無造作にワックスで仕上げ、顔も水で済ませる。シェーバーはしなかった。
施錠もせずに僕は駅に向かって駆け出した。
 
電車の他にもっと速く着ける方法も考えた。が、バス停はあるがバスは見当違いな駅に行くだけだし、タクシーは滅多に通らない。
携帯でタクシーを呼んだところで来るまでに5分以上かかるし、第一、道路の状況が掴めていない為リスクが高すぎる。
自慢じゃ無いが愛車は持ってないし、それよりも免許を一つも持ってない。
 
だったら、やる事は一つに絞られた。
僕が時間短縮出来る場所が一箇所だけあったはずだ。
そう、「乗り換え」だ。
あの場所で、死に物狂いで走れば5分時間を巻き戻せる。
それしか方法はない。

予定通り、8時8分に到着する電車に、1度目の「数時間前の景色」とは違い、今度は苛立ちを覚えながら乗り込んだ。
7時58分と8時8分の間に電車が来ない事もこの時ばかりは恨んだ。
電車に乗車している回りの人の顔は、1度目の「数時間前の景色」とまったく同じ人ばかりだ。
金髪の朝帰り風兄ちゃんや、携帯を神業のように扱う学生、恥ずかしげもなさそうに化粧を続けるOL、昨日の酒が抜けてないようなサラリーマン。
「殺伐」という統一感までが一緒だ。
だが、電車の中では必ずヘッドフォンをする僕のルールは今回ばかりは中止だ。
携帯と財布以外は全て家に置いて来たからだ。
一定のリズムで刻む電車の「ガタンゴトン」って音がやけにでかく感じた。
耳障りだったので鼻歌を歌ってごまかした。
「ポーズ決めたら変身出来ないかなぁ出来ないよなぁ・・・」


(8)
 
8時32分。
 
1度目の「数時間前の景色」同様、まったく同じ時間に電車は乗り換え予定駅に着いた。
この一本を早める事が出来れば、1度目の「数時間前の景色」を捻じ曲げられる可能性がひらける。
なんとしても8時34分の電車に乗らなければ、意味が無い。
この場所が全ての分岐点だ。
とにかく僕は全速力で駆けていた。
ここで鞄を置いてきた事、ネクタイをしてこなかった事が生きてきた。
しかもだ、説明不足だったかもしれないが、足元は「シューズ」で来たのだ。
「ローファー」では無理があると玄関口でとっさに「シューズ」に履き替えたのだ。
リクルートスーツにシューズとはちょっと異色だが、明らかに景色が早い。
足元の見えないボールを巧みに操り、ディフェンダーを次々と抜けて、改札を飛び越えて最後の階段も飛び降り、そのまま転がりこむように電車と言うゴールネットに突き刺さった。
「ゴール!!ゴール!!ゴール!!ゴーーーーール!!!!!」
何処かの実況アナウンサーみたいに頭の中で叫んだ。
「成せばなる」なんてこんな時に使うのだろうか?とにかくこれで大きく「捻じ曲げる」チャンスに近づいた・・・。
 
計算通り8時45分に電車は目的の駅に滑り込む。
1度目の「数時間前の景色」以上に急いで改札をくぐり、エスカレーターよりも早く地上に出た。
時間は8時46分30秒・・・。
あと数十秒で事故は起きる。
そんな事が本当に起きるんだろうか?と言うぐらいの日常の風景が逆に恐怖を誘う。
交差点に向かって走ると思い思いのスーツを身に纏う会社員、OL、学生、ランドセルの子達もチラホラ目立つ。
誰もが同じようにジリジリと苛立ちながら信号待ちをしている。
この中に親父も、あのランドセルの子もいるはずだ。
「すいません!!ちょっと通して下さい!!子供が危険なんです!!」
説明不十分の僕に対して、まわりのスーツ姿はあからさまに顔を歪める。
「すいません!!急いでるんです!!通してください!!すいません!!」
どこだ?スーツ姿の隙間を縫いながら横断歩道に少しづつ近づく。
横断歩道のギリギリ一歩手前に数人のランドセルを背負った子達が見えたその瞬間だっただろう、何かに押され僕はよろめいていた。
 
「!?」
 
振り返ると、僕の後ろのスーツも同じように、僕に体重を預け後ろを睨んでよろめいている。
誰だかは分からないが、躓いたか、転んだりしたのだろうか?
そんな事を瞬時に頭に描いた時にはバランスを取れずに僕も前のスーツにぶつかっていた・・・
大人はよろめいたで済むが、1番前にいたランドセルの子達の一人はバランスを崩し、道路に飛び出していた。
僕はとっさに叫んでいた。
「親父!!いるなら子供を助けてくれ!!」
 
けたたましいクラクションとともに一台の車が子供に襲いかかる一手前で一人の男性が子供を救い出した。
その後鈍い音と、ゴムの焦げる匂いが辺りに散らばった・・・
 
そこで疑問が沸いた。
今の事故の発端は僕じゃなかったか?
もしかしたら僕が割り込みした事に腹を立てた誰かがわざと押したんじゃないのか?
「数時間前の景色」が一体どんな事故だったかは知らない。
だけど、これじゃ何も解決になってないんじゃないか?
分からない・・・分からないが・・・
 
バランスを崩していた僕の前に投げ飛ばされた子供はただその場で泣き叫んだ。
そしてもう一人僕の前では中年男性が倒れこんでいた・・・。
 

(9)
 
翌日。
 
僕は薬品の匂いが立ち込める部屋にいた。
母親も一緒だ。
目の前にはベッドに横たわる親父の姿があった。
右腕には点滴を受け、親父の横のモニターは親父の鼓動を一定のリズムで刻んでいた。
 
親父はまだ目を覚まさないが、1度目の「数時間前の景色」とは明らかに違うところがあった。
そう、言い方は悪いが「生きている」んだ。
僕の目の前の親父は確かに生きている。
だけど、事故のすぐ後に浮かんだ疑問は未だに消えてなかった・・・
 
ドアをノックする音の後、あまり間を空けずに、初対面だが見覚えのある先生が入って来た。
入ってきて早々、「いやぁ~打ち所が悪ければ大変な事になりましたよ」
「無意識なんでしょうかね~ちゃんと自分で頭などは守ったせいで、左腕の骨折と肋骨にヒビ、体中の打撲で済んでます」
「まるで自分が事故に合う事を初めから予測してたような対処の仕方です」
この言葉に「ひっかかり」を覚えたが先生は続ける。
 
「運動神経が良かったんでしょうねぇ」
「頭にも異常は見られませんし、命にも別状はないですよ」
笑顔交じりに先生は語った。
部分部分の専門的な文章は覚えていないが、とにかく命に別状は無い事を知れただけでもう十分だった。
親父が大怪我をしたのは紛れも無い事実だし、僕の不甲斐なさもこれまた事実だ。
だけど、1度目の「数時間前の景色」を捻じ曲げる事が出来たのも事実だ。
 
例のランドセルの男の子が親父の為に、精一杯の感謝の気持ちを込めて書いた絵が壁に貼られていた。
そこには親父に似てない似顔絵と、「おじちゃんはぼくのひいろお!!はやくよくなってね!!」と綺麗とは言えない字で書いてあった。
僕も子供の頃に同じように「おとおさんわひーろーだ!!しょうらいぼくもひーろーになるんだ!!」って書いた事があった。
それを思い出した途端、知らず知らず泣きそうになった。
 
「やっぱり親父は今でも僕のヒーローだよ」
 
それでも事故の後の疑問は拭えなかった。
「僕は間違ってなかったんだよね?」と目覚めない親父に投げかけた・・・。
 

(10)
 
 2日後・・・
 
目を覚ました親父はこう切り出した。
「腹へったぁ~!!」
あぁそれで良い。それでこそ僕の親父だ。
親父は自分の姿をキョロキョロと数秒見た後、「お前も元気そうだなぁ!!俺もこんなんだけど元気だぞ!!」
と、骨折した腕を上げて見せる。
「いいからおとなしくしてろよ!!」
僕はいつものように返す。
「母さんはどうした?」
「あぁ、なんか親父がそろそろ目を覚ましそうだから、親父の好物買いに行くってさ。ホント恐いね夫婦の絆ってさ」
「流石俺の女房!!多分イチゴを買ってくるなぁ」
と嬉しそうな親父。
 
どのくらいだろうか?
ほんの数秒・・・いや数分だったかも知れない。
それまでのトーンとは明らかに違う口調で親父は話しはじめた。
 
「お前はもしもって信じるか?」
「もしもあの時ああしておけば、こうしておけばって願った事が現実になると思うか?」
「俺は奇妙な出来事に出会ったんだ」
「いつもどおり遅刻ギリギリで会社に向かってる時にな、目の前で子供が轢かれそうになっていた。それを助けられなかった・・・」
 
少しためらいながらも続ける。
 
「率直に言ってしまえば、恐くて車に飛び込めなかったんだ」
「子供は多分即死だったと思う」
「その時に感じたよ、自分の息子だったらためらったのか?ってな」
「答えはノーだ、間違いなく後先考えずに車に飛び込んだはずだ」
「他人だから、身内だからって天秤にかけてる自分にうんざりもしたし、その場で後悔もしたよ」
「もしももう一度チャンスがあるなら必ず助けるのにってな」
「いつから俺はこんな弱い人間になったんだって、嫌な人間になったんだと自分を責めたよ」
「何度も何度も・・・俺はヒーローに憧れてたはずなのになぁってな・・・」
「その時だった、大きな耳鳴りの中、景色がグニャリと曲がるような感覚に襲われたんだ」
「気付いた時には俺は新聞を読んでたんだ」
「その朝の風景は違和感だらけだった。そして気付いた」
「それが数時間前の景色だとすぐに受け入れることにしたよ。そしてあの子を助ける事を誓ったんだ」
 
「目的の駅に着いたのは1度目の数時間前の景色とあまり大差無い時間だった・・・」
「とにかくその短い時間の中で、あの子を捜したんだ」
「あの子が横断歩道に辿り着く前に見付ける事が出来れば事故は回避出来ると思ったからな」
「しかし、他にもランドセルを背負って、校帽を被ってる子なんて沢山いるし、ましてや制服を着ていて特徴もこれといってない、背丈も似ている子が多い、名前も分からない」
「こうなったら子供が倒れこんだ時に助けるしかないと感じたんだ」
「それでどの子か迷う事もないと感じたし、その時はそれ以上考えられなかった」
「まぁそこからはお前も知っての通りだ」
「だから・・・だから俺はヒーローなんかじゃないんだ」
そこまで話して親父は俺の目を見た。
そして少し間をおいて続けた。
「今日、目を覚ますまでの間、お前が子供の頃の事も思い出した」
「覚えているか?お前がまだ小学生だった頃の話だ」
「なんでも、友達を助けたんだ。僕は友達の危機を救ったんだ。1回目は無理だったけど、2回目は救ったんだよ。ってな」
「僕もヒーローになったんだ、でもヒーローは正体がバレちゃいけないからこれはお父さんと僕の秘密ねと言っていたんだ」
「その時は聞き流しはしてないものの、子供の意図するものを理解してなかったと気付いたよ」
「あぁ、これの事だったんだってな」
「1回目は無理だったけど、2回目は救ったって意味もようやく理解した」
「十数年かけてやっと答えが分かったよ」
「お前は俺よりもずっと前にこの奇妙な出来事を体験してたんだったって理解した」
「あの事故の前に聞いた留守電も聞いた時は驚いたが、今思えば納得だ」
「お前も俺と同じように数時間前の景色を見たんだな?」
そう言ってまた親父は俺の目を見た。
 
「あぁ、見たよ。ただ違う事がある」
「俺の見た数時間前の景色は、親父が死んだんだ」
「1回目もオヤジは勇敢に子供を救っていたんだよ」
「だけど、その場所に俺はいなかった。その時には俺はもう面接会場にいたからね」
「そして2回目の数時間前の景色は、おれのせいで・・・おれのせいで事故になったかも知れないんだ」
「ヒーロー気取りで自分が助けるつもりだったくせに逆に事故を引き起こしたんだ・・・」
少し感情が昂るのを感じた。
 
「いや、それは違うんじゃないか?」
「結果がどんな形になったかはやはり結果論でしかないだろ?」
「ただお前は自分にとっての最善をつくした、そうだろ?」
「目の前で起こるかも知れない事実を指をくわえて見ていられなかったんだろ?」
「それで良いじゃないか」
「それでこそ俺の息子だ」
「子供だって、俺だって・・・俺はかなり痛いが元気なんだ、もう自分を責めるのはよしなさい」
親父の言葉はとても温かかった・・・
「なんだか親父に救われたよ」
精一杯の照れ隠しで僕はそう言った。
 

(11)
 
「子供の頃は他に誰も同じ体験をした奴がいなかったから、同じ日を2回体験したような気にもなってた」
「でも今回は違う。親父も似たような体験をしている。しかも微妙に形を変えて・・・」
「これは、数時間前の景色は現実ではないって証拠じゃないのかな?」
僕の結論はこうだった。
 
「そうかも知れないな」
簡潔な返事を親父はした。
 
「随分あっさりとかたずけるねぇ~」
僕が言う。
 
「どっちが正解って永遠に出ない問題だろ?恋の相談する女の子みたいに二人で永遠にこの話題を続けるのも違うだろ?」
親父は言う。
 
「確かにね。女の子ってず~っと同じ話題を繰り返す時あるよね。かっこいい、かっこわるい、告白する、しない、あれは何でだ?」
僕が言う。
 
「お前、話の論点そこじゃないだろうに」
親父の突っ込みが入った。
 
「そうそう、俺はヒーローじゃないって言ってたけどさぁ、車に自ら突っ込む人をヒーロー以外に例えるとバカって言うしかないんじゃない?」
と僕はちゃかした。
 
苦笑いをした後、親父が何かを思い出し勝ち誇るように、「そうそう、留守電の用件はもっと分かり易く簡潔にしなさい。あんな文章じゃ面接で落ちるに決まってる」
 
この親父・・・。
 
「それって今必要だったぁ?」
僕は溜息混じりに切り返したがサラリとかわされた。
 
「それより母さんは何処まで買い物に行ったんだ?」
「さぁ?親父の好きなイチゴを狩りに栃木まで行ったんじゃねーの?」
「ありえる・・・」
いつものバカな会話に戻っていた。
 
病室の無音のテレビでは、「誘拐犯逮捕、子供の無事を確認」と短いテロップが流れていた・・・。

 

(あとがき)

えーっと、かっこよく言えば僕の「短編」、僕なりの言い方をすれば「駄文」は楽しんで頂けたでしょうか?
別に誰かに発表したくて書いたものでは無かったんですが、唯一マネージャー2人に見せたところ意外にも良い反応が返ってきました。
誰かに伝わるように書いたつもりもないし、小説のように書きたいわけでもなかったんですが、こんな駄文でももし楽しんでもらえたらとFACESの皆さんに、手始めに(爆)発表する事にしました。
何度も反復しますが、誰かに伝えようとか、「良いでしょ?」とかそんな気はサラサラないんです。
なので、発表すると決めてからも、書き直しはしていません。(ちょっとした)
この作品は去年の11月中に、1日で書き上げたものです。
元々なぜこんな駄文を書いたのか?皆さんの中にはこれが気になる方もいらっしゃるでしょう。
僕はSURFACEの歌詞の全てを書いています。
その歌詞達に込める思いは、リアルの自分の経験や、希望など「椎名慶治」の心で書いています。
いわゆるノンフィクションに近いわけです。
それに比べて今回の駄文はフィクション。
多分これから先も僕の歌詞には使われる事がないであろう言葉達なわけです。
しかし、頭の中を整理するためにも、言葉を吐き出してしまおう、ゼロにしてしまおうという思いから書き上げました。
僕の頭の許容量はそれ程大きくないんです。
吐き出さないといつまでも同じ世界観に固執してしまう事が多々ありましたから。
この駄文を書き上げる事で、歌詞の世界観を広げる事が出来るような気がしました。
そしてそれは正解だったみたいです。
今後、また駄文を書き上げる事がある気がします。
その時は皆さんを犠牲にしても良いのでしょうか?
少し不安に思いつつも、あとがきにかえさせてもらいます。

2003,4,1 椎名慶治

 

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以前このブログで短編を書いていると言ってから数ヶ月、とうとうアップしたわけですが、見ての通りこの短編「2003年」に書いた前作なんですよ。元々ファンクラブのみで先行公開をしたものなんですよね。

続編はやっぱり前作を読んでもらってからの方が楽しめるかなぁ~と思ってコチラをさきにアップさせて頂きました。

アップする場所もすっげ~色々考えたんですよ。オフィシャルだったり、MCさんだったり、ブログでも別枠にするとかね。でもやっぱいつもの自分の場所でアップするのが1番リアルなんじゃね~か?って思いましてここに決めました。

真剣に考えずに軽い気持ちで楽しんでもらえれば嬉しいです。あくまでお遊び程度ですので。

 

 



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